皆が安心して登山できる「那須岳」を目指して
日本国内には、活発な火口近傍まで登山客が近づくことのできる火山が多く存在します。今回調査を行う那須岳(茶臼岳)もその一つであり、直近の噴火が1963年と比較的最近噴火している活動的な火山です(※これらの特徴は2014年に噴火による甚大な被害をもたらした御嶽山と似ています)。また、比較的首都圏から近く、ロープウェイもあるなど登山の初心者でも気軽に登ることができるため、非常に多くの登山客が訪れる火山として知られています。もし那須岳で噴火が発生すれば、噴火の規模が小さくても、2014年御嶽山噴火災害以上の人的被害が出る恐れがあると考えられます。
実験概要
那須岳での登山管理や事前防災に役立つ情報の提供を目指し、今回登山者の動向を把握するための実験を行うこととなりました。
2020年10月3日(土)、4日(日)の2日間に渡り、那須岳における登山者動向把握実験を実施します。この実験は、那須岳における登山者の動態データを取得し、登山者の動向(おおよその数と大まかな位置に関する情報)を把握することを目的としています。今回の実験は、富士山(2015~2019年)と御嶽山(2019年)で実施した実証実験と同じシステムを使って行います。
登山者に小型(5cm四方程度)のビーコン(写真①)を持って登山をしていただき、あらかじめ登山道他(図①)に設置したレシーバー(写真②)でビーコンを持った登山者の動きを検出するものです。
図①(登山者位置測位のためのレシーバー配置図)
国立研究開発法人防災科学技術研究所
実証支援:一般社団法人富士山チャレンジプラットフォーム
実施目的
登山者の行動特性の把握することを目的とする。
・登山者移動速度
・登山者移動経路
・時間帯による登山者数変化(滞在時間等)
・登山者把握時間検証(10/4)
実証実験内容
●ビーコンとレシーバーによる登山者位置測位
●GPSトラッカーによる登山者位置測位
●その他
・登山者向け周知情報の提供(FCP)
→QRコード読取サイトにおける登山者情報サービス+アンケート
・登山者混雑状況の情報提供(FCP)+登山防災啓発
→山麓駅での大型液晶+ジオラマでの混雑情報の提供+登山用ヘルメット展示
(防災ジオラマネットワーク、㈱谷沢製作所協力)
2019年10月3日(土)~4日(日)
実施範囲
峠の茶屋駐車場、那須岳ロープウェイ~茶臼岳山頂・朝日岳山頂区間
想定登山者数
2,000人(最大)※2日間
実証時間帯
6:00~17:00
ビーコン配布回収場所・時間
①峠の茶屋P(6:00~17:00)
②RW山麓駅(8:00~17:00)
※ロープウェイ運行時間:8:30~16:20
レシーバー設置箇所
15個所
那須岳火山における登山者位置測位(ビーコン)
【平時】登山者の混雑や行動特性の把握に活用
○登山者の登山経路、速度、滞在時間などのデータを収集
○登山道毎の登山者数や時間単位での通行量を把握
⇒登山者全体の行動特性を「見える化」
【緊急時】災害時の登山者把握、避難誘導に活用
○災害発生から、数時間以内に登山者数や所在を把握
⇒迅速かつ的確な救命救助の情報連携
○災害状況の変化や登山者位置に応じた避難情報伝達
⇒正確で確実な情報伝達による避難誘導
実験データの活用
❶平時における登山者動態データの活用
本実験で得られる登山者動態データは、噴火を想定した場合の登山者の被害をハザードマップやシミュレーション結果などと合わせることで、人的被害を推定することが可能となります。このデータを基に噴火時の避難計画(避難施設、避難指示看板の設置場所や避難経路を決定など)に役立てることができます。
❷噴火発生時における登山者動態データの活用
2014年御嶽山噴火発生時、登山者に関する情報が足りず、救助・捜索活動に困難が生じました。噴火発生時にこのようなシステムがあれば、登山者の動向把握をデジタルの地図上でリアルタイムに把握でき、また救命救助や捜索にかかる時間の大幅な短縮や避難者の誘導や受け入れや医療体制整備など初動対応や判断に役立てることができるようなることから、システムの導入を検討のために活用していきます。
❸日常の登山管理での登山者動態データの活用
この実験で得られるデータをインターネットやアプリで閲覧可能な地図上で可視化することで、平時の登山道の混雑状況の把握や登山者の行動パターン(登山時の移動速度、通ったルート、休憩ポイント、ロープウェイ利用の有無など)が分かり、安全に登山ができる環境整備に役立てることができます。
また今年大きな社会問題になっている新型コロナウイルスでの登山中の感染予防をするため、登山者が密にならない状態を把握することにも活用できます。